IFRS第17号報告書の更新

執筆者:John Bowers、Actuarial Product Director, RNA Analytics 

フィッチは、IFRS第17号報告書の現状を分析し、同基準が比較可能性と透明性という当初の目的にどれだけ近づいているのか、あるいは近づいていないのかを明らかにした。

IFRS第17号の適用は保険業界全体に大きな変化をもたらした。比較可能性と透明性を高めるという新しい世界的な会計基準の目標にもかかわらず、コンプライアンスは複雑で、生保・損保の各セグメントで保険会社によって採用されている解釈やアプローチが異なっている。

2024年3月、保険会社は新基準の下での最初の報告書一式を公表し、その影響に関する最初の実質的な洞察を提供した。ほんの数ヶ月前には、PwCが英国の主要な生命保険会社および損害保険会社の開示内容を分析した報告書を取り上げたが、そこでは、文化的・地域的な影響を反映して、方法論、粒度、キャリブレーションに顕著な違いがあることが明らかになっただけでなく、原則に基づく基準特有の柔軟性が浮き彫りになった。

それ以来、保険会社における新基準の適用方法に関する新たな分析が行われ、その影響に光が当たっている。フィッチ・レーティングスが世界の生損保会社を対象に実施した最新の調査によると、IFRS第17号では財務諸表の透明性が向上しているにもかかわらず、保険会社間の比較可能性は、保険会社固有のモデリングや開示の選択肢が多いため、依然として制限されている。

この点は、基準が定着するにつれて改善されるものと思われる。保険会社間の完全な比較可能性の達成には時間が かかる。実際、格付け業者も、新基準の初期 の影響がなくなり、業界が透明性と比較可能性の 両方に自然にシフトし始めるにつれて、今後数カ月か ら数年のうちにこの問題が進展すると予想している。

フィッチによれば、IFRS第17号がこれまでのところ達成しているのは、契約上のサービス・マージン(CSM)のおかげで、保険会社の資本構成と収益の推進力に関する、これまでは得られなかった洞察の実現である。

CSMは、保険契約発行者が提供する保険サービスに応じて長期的に認識される将来の前受収益であり、IFRS第17号の前身であるIFRS第4号の下で可能であったよりもはるかに明確かつ予測可能な形で保険会社の収益性を明らかにするものである。格付け会社によれば、一部の保険会社は、事業ライン・レベルでの動きをCSMで分析し、潜在的な成長分野や収益軌道の脆弱性を特定することさえ可能にしている。

フィッチの分析によれば、IFRS第17号導入による財務報告上の影響は、生保部門と損保部門でほぼ同等であった。また、ボラティリティは主に損害保険部門のコンバインド・レシオに関して顕著であるとした。

より一般的には、新基準の導入により、割引の単発的な効果の結果、コンバインド・レシオが改善した。格付け業者は、コンバインド・レシオの計算方法と開示に矛盾があることも指摘している。割引の追加により、コンバインド・レシオが、フィッチの予測通り、金利の動きや割引率の巻き戻しに対する感応度から不安定になるかどうかは、まだわからない。

IFRS第17号の導入はまだ発展途上のプロセスであるが、現在でも懐疑的な見方が根強い。今四半期にロンドンとパリで開催された格付け業者の保険インサイツ・コンファレンスで実施された聴衆調査では、新基準に対する懐疑的な見方が高いことが明らかになった。実際、両会場とも回答者の半数以上(パリでは59%、ロンドンでは56%)が新基準について「何も気に入らない」と答えており、業界は新基準の採用に伴う多大なリソースの需要にまだ適応していないことを示唆している。

このデータから得られた注目すべき点のひとつは、新基準が意図するメリットを認識している参加者が比較的少なかったことである。一方、比較可能性については、パリで8%、ロンドンで10%と、やや高い評価であった。これは、財務報告の透明性を向上させるという新基準の目的にもかかわらず、多くの利害関係者がこのような利点をまだ認識していないか、あるいは課題よりも利点の方が大きいと考えていることを示している。

にもかかわらず、IFRS第17号が財務分析に有用な情報を追加することに同意する回答者の割合が高い(パリ25%、ロンドン17%)。さらに、5%(パリ)と8%(ロンドン)は、IFRS第17号がより予測可能な収益パターンを生み出す上で有益であると考えている。

これらの調査結果は、保険会社とテクノロジー・プロバイダー双方にとって重要な問題を提起している。抵抗の主な原因は、技術的な複雑さなのか、リソースの負担なのか、財務諸表の比較可能性への懸念なのか。大規模な経営資源を持つ大手保険会社でさえ、チームのスキルアップや結果の十分な理解という課題に直面していることが分かっている。

ソリューション・プロバイダーとして、我々はIFRS第17号に対する信頼性を向上させるような更なるガイダンスを検討しなければならない。我々は、保険会社がIFRS第17号のもとで進化する財務報告の状況に適応できるよう、保険会社と緊密に協力し、明確なガイダンスとサポートを提供していくつもりである。

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