2025年の予測新しい年の新しいモデリング・アプローチ
執筆者:John Bowers、Actuarial Product Director, RNA Analytics
テクノロジー、社会、そして仕事の世界が加速度的に進化し続ける中、これらの変化を振り返る時間を見つけることは難しいかもしれない。しかし、孔子の言葉にあるように、「未来を定めようとするならば、過去を研究するのが賢明である」。
ちょうど1年前に書かれた2024年の予測は、今後の年間予測の貴重な比較材料となる。私たちは、パンデミック(世界的大流行)の後、リモートワークやデジタルワークが基礎となり、新たなレベルのコラボレーションが可能になることを論じた。この進化する状況の中で業務と戦略の成功をサポートするためには、プロセスを適応させる必要があり、新たなソリューションが必要であることを認識した。
特に保険業界にとって、デジタル・トランスフォーメーションは、保険エコシステム全体にわたって、非常に大きなものとなっている。特にモデリングにおいては、保険会計、自己資本比率、ソルベンシー、リザーブ、年金、健康など、世界的な規制や基準の変化に対応するため、技術やソリューションが急速に進化する必要があった。
例えば、欧州や英国におけるソルベンシーⅡの最新版や、日本の金融庁が期待するJ-ICS に該当する保険会社のニーズの変化などである。ますます広がり、複雑化する規制当局の要求に対応するためには、トレンドに迅速に対応できるよう開発されたツールでなければ十分ではない。
同様に、気候変動リスクの分野でも、気候変 動と流動性テストの改革が変化する中で、リ スクと資本のモデル化には柔軟なアプローチが 不可欠である。気候変動に関しては、保険会社は、バランスシートの 両側で気候変動に関連するリスクにさらされ るという、ユニークなリスクプロフィールに直面する。これは、損害保険会社にとっても、生命保険会社にとっても同様であり、両社とも、今後1年間、気候変動分野の動向を注意深く見守る必要がある。
今後の最も重要な動きとしては、自然関連財務開示タスクフォース(TNFD)フレームワークがある。気候関連財務情報開示タスクフォースをモデルにしたTNFDは、企業の意思決定に自然を取り入れることを奨励し、自然がもたらす負の影響から資金の流れを遠ざけることを目指す。
TNFDによってもたらされた複雑さの中には、「二重の重要性」という概念の導入がある。二重の重要性とは、自然が自社の直接的な財務業績にどのような影響を与えるか、また、自社の事業が自然にどのような影響を与えるかの両方を開示することを組織に求めるものであり、その結果、モデリング技術に新たなアプローチが要求されることになる。
AIとデータ・サイエンスが保険会社やアクチュアリーに与える影響には、来年、「二重の重要性」の要素が見られるだろう。両者があらゆる分野のアクチュアリーにチャンスをもたらす一方で、データ源の絶え間ない増加、AIやデータ・サイエンス・ツールの能力の拡大が、リスク・プロファイルやリスク選好度に大きな変化をもたらし、その結果、モデリング需要も変化する。
現在進行中のグローバルなデジタルトランスフォーメーションによって推進される業務効率化は、2025年には具体的な利益をもたらすと考えられている。こうした利益は、規制の圧力に大きな影響を受けている企業にも、コンプライアンス上の要求が少ない企業にも及ぶだろう。例えば、IFRS第17号準拠のために導入されたシステムやソリューションが導入後に安定するにつれて、その結果もたらされる業務上の節約や戦略上の利点が明らかになり、測定可能な価値と長期的な配当がもたらされる。
新年の課題に立ち向かうにあたり、保険のエコシステムは、イノベーションが倫理や社会の幸福を犠牲にすることのないよう、重要な役割を担っている。来年は、規制当局、保険会社、テクノロジー・プロバイダーが協力してこれらの新たな課題に取り組み、おそらく共通の目標に向かって歴史的な進歩を遂げるだろう。そして1年後、私たちが前を向いて振り返るとき、業界がより持続可能で強靭な未来への道を切り開くように、私たちもまた、急速な進化と世界的な期待の高まりの中で、変化をもたらす前向きな力となってきたことを実証したいと願っている。